記憶の底に 第9話


ルルーシュの感じていた渇きは、記憶の喪失により失われた記憶を求める心が体に与えていた影響。
忘却の砂漠に放り込まれた心が、記憶と言う水を求め足掻いていた証。
じりじりと身を焦がすような暑さは、あの夏の日を共に過ごしたのはジノとロロでは無いと、記憶の底に残ったわずかな思い出が、あの日々を思い出せ、違和感に気づけと訴えていた物だった。

「つまり、俺のこの渇きの原因は記憶を失った事による障害だったわけか。では、もう完治したと考えていいのか?」

自分の出自も、戦う理由も思いだした。
あの夏の日共に居たのはスザクで、愛する家族は妹のナナリー。

「そう言うことだな。おめでとう、お礼に私にピザを焼け」

感情のこもらない表情で、C.C.は早速ピザを強請る。
この状況でピザ?と、周りは不思議そうな表情でC.C.を見た。
だが、ルルーシュはまたかと言いたげな視線を向け、呆れたように言った。

「・・・後で焼いてやる。それで?どうしてこういう状況になったんだ?特にスザクと、ロロは俺の敵だろう?大体、こんな話を生徒会メンバーの前でするのは問題がある」

すっと目を細め、ルルーシュは周りを見回した。
ルルーシュの記憶喪失の原因が皇帝の持つギアスと言う不可思議な力の影響で、それとは異なる力をルルーシュが持っている。それだけでも混乱する内容だというのに、ルルーシュは元皇子で、父である皇帝に日本に捨てれら、日本との戦争で死を偽装することで生き延びた話までされたのだ。
全てを知るロロとスザク以外話しに着いていけず、困惑していた。
当然だな、とルルーシュはC.C.を見た。

「お前なら気づいていると思うが、ここに居る全員がお前に対する人質だ。お前が万一記憶を取り戻しても下手に動けないよう用意した生贄ともいえる」

お前が動けばここに居る者は殺すと、そう言う意味での生贄だ。

「だろうな。それ以外に生徒会メンバーだけを残す理由も、スザクを学園に戻す理由もない。まあ、ジノに関しては不運だったとしか言えないが」

この中でルルーシュの人質として役に立たないのはジノとロロのみ。

「それは違うだろう?まさかお前、忘れたかのか?お前は幼少期その三つ編みと面識がある。6歳のお前に、5歳の少年が自分を騎士にしてくれと申し出てきたとマリアンヌが話してたぞ?ヴァインベルグの三男坊だし、才能も有りそうだから、将来騎士にするのも悪くないと言っていた」

こいつがその三男坊だろう?
C.C.はジノを指さしながらそう言った。

「・・・待てC.C.。なぜそこで母さんの名前が出てくる。そしてどうしてその話を知っているんだ」

それは肯定を示す言葉で、スザクは驚くジノを冷たい視線で見つめた。

「やっぱり覚えていたか。ああ、私はマリアンヌの古い友人だ。お前は流石に覚えてないだろうが、こんな写真まである仲だ」

そう言うと、C.C.は幼いルルーシュを腕に抱いた写真をぴらぴらと振った。それはロロにも見せた、お腹の大きなマリアンヌと映った写真。
ルルーシュはその写真を奪い取ると、まじまじとその写真を見詰めた。

「くっ・・・失態だ。お前の顔を覚えていれば・・・」

何年たっても外見は取っても変わらないのだから、一目で解っただろうに。

「流石のお前でもその幼さでは無理だろう。・・・いいから返せ。何ポケットにしまっているんだ」
「これは俺が貰おう」

ルルーシュはしれっとした顔で、写真を胸ポケットにしまった。

「返せマザコン。私がマリアンヌと映っている写真はそれだけなんだからな」
「・・・と言う事は、他にも写真が?」

すっと目を細め、ルルーシュはC.C.を見た。

「・・・仕方ない、後でマリアンヌが綺麗に映ってるやつをくれてやるから、それは返せ。おまけとして産まれた頃のナナリーの写真も付けてやる」

お前、持ってないだろう?

「仕方ないな」

交渉成立。
ルルーシュはポケットから写真を取り出すとC.C.に返した。

「全くこのシスコンマザコン男は」

油断も隙もない。 C.C.は呆れながら写真をポケットにしまった。

「・・・C.C.、ルルーシュの写真って他にあるの?」

横から食い入るように写真を覗き見ていたスザクは、首を傾げながらそう尋ねた。

「お前まで食いついてくるのか枢木スザク。まあ、あるぞ?マリアンヌから結構貰ったからな。マリアンヌが生きていた頃のだけだが・・・欲しいのか?」
「欲しい」

スザクは真剣な顔で頷いた。
そんな二人のやり取りを見て、どうしてスザクが写真を欲しがるのだろうと、ルルーシュは小首を傾げた。敵であるスザクが自分の写真を欲しがるはずがない。ということは、幼い頃から交流があったとスザクも知る、ユーフェミアの写真が出てくることに期待しているのだろうと納得した。

「即答か。ならお前もこちらに着け。ここまま皇帝に着いていてもラグナレクによって世界が破滅して終わるだけだぞ」
「ラグナレク?」

何それ?と、スザクは首をかしげた。

「ラグナレク。世界の終末、最終戦争。神々の死。それが起きると?」

ルルーシュは眉を寄せながら尋ねた。

「起きる。いや、起こそうとしている」

C.C.は事もなげに答える。

「馬鹿な。いくら世界を侵略しようと、ギアスを持とうと、そんな事不可能だ。神にでもなるつもりかあの男は」

唾棄する様に吐きそうてた言葉に、C.C.はぱちぱちと手を叩いた。

「流石だなルルーシュ、大正解だよ。シャルルの目的は神を殺し、自分が新たな神となることだ。侵略戦争はいわばそのための下準備にすぎない。そしてラグナレクの接続はコードを使えば可能。神の居る場所へは、コードあるいはギアスを持つ者が導けば辿り着く事が出来るからな。長い時を掛けたこの計画も最終段階に入り、すでに神の命は風前の灯火。間もなく既存の神はアーカーシャの剣により消滅するだろう」
「・・・つまり、お前が関係しているという事か」

コードが必要とはそういうことだ。

「私も、だ。私はマリアンヌが殺害されたあの日から手を出してはいない。もう一人V.V.というコードユーザーがブリタニアには存在している」
「V.V.?」
「マリアンヌを殺害し、ナナリーを撃った真犯人。シャルルの双子の兄。式根島でお前とスザク、カレン、ユーフェミアを神根島に送った者。ブラックリベリオンでナナリーを誘拐し、スザクに行政特区の情報を与え、お前を殺しに行かせた者。他にもある。日本に来たお前とナナリーに何度も暗殺者を送ったのもV.V.だし、ロロを家族から引き離し、暗殺者として育てたのもそうだ」

そう言いながら、C.C.は視線をロロへ向けた。

「僕は戦災孤児ですが?」

ロロは見下すような視線をC.C.に向けたが、C.C.は表情を変えること無くその視線を受け止めた。

「いや、お前には家族がいる。母は既に無いが、兄と、姉がな」

にやりと、C.C.はその顔に魔女の笑みを浮かべた。

「兄と、姉だと?まさか・・・!」

ルルーシュはその言葉に、驚きロロを見た。
そのルルーシュの反応に、ロロもまさかと視線を向ける。

「見ろ、ルルーシュ」

C.C.はポケットから1枚の写真を取り出した。
そこには産まれたばかりの赤子が保育器に入っている写真だった。
飴色の柔らかそうな髪が生えた赤子。
それが。

「・・・二人・・・?」

ルルーシュは声を震わせながら写真を見つめた。
見間違えるなどあり得ない。間違いなくナナリーの写真だ。
だが保育器の中には寄り添うように二人の赤ん坊が入っていた。
そっくりな、双子の赤ん坊が。

「この子たちは予定より早くに産まれた。そのため、産まれてすぐに保育器に入れられていた頃の写真だ。たまたま私はその日マリアンヌに会いに来ていて、あまりの可愛さに思わず映したんだ。まだこの頃は名前は付けられていなかったが、男の子と女の子の双子だった。だが、数ヵ月後マリアンヌが検査のため私の元にやってきた時、その腕には一人しかいなかった」

ねえ見てC.C.。元気な女の子よ。名前はナナリー。
今日からギアスの適性検査を受けるわ。

「一人・・・」
「マリアンヌは双子を産んだという記憶を無くしていた」

もう一人?何を言っているのC.C.?生まれてきたのはこの子だけよ?夢でも見たんじゃない?

「な・・・!」
「え!?」

ルルーシュとロロは絶句し、C.C.を見つめた。

「私はシャルルに問いただした。シャルルは言ったよ、V.V.がラグナレクの接続のために必要だというから、双子のうち弟の方をくれてやったとな。そしてマリアンヌが悲しまないよう、記憶を改竄したと」

既に男は居るから、女を残したと。
何よりV.V.も男が欲しいと言っていたらしい。

「なんだと・・?」

ルルーシュは怒りに震えながらもどうにか言葉を口にした。

「私はV.V.を探し赤子の行方を調べたが、どこに隠したのやら私には見つける事が出来なかった。元々V.V.のコードは代々ブリタニアの皇族が守ってきたもの。私には知りえないV.V.を守るための手があったのだろう。マリアンヌの死後、身の危険を感じた私はブリタニアを離れた。だからその赤子の行方もそれっきりだったが、まさかお前の弟役に、本当の弟を使うなんて思わなかったぞ?流石V.V.だ。お前たち兄弟で殺し合いをさせ、生き残った方に真実を告げて嘲笑うつもりだったんだろうな」

私も性格は悪いが、V.V.には負ける。
魔女は口元に苦笑を浮かべながら、茫然としているルルーシュとロロを見つめた。

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